2016/01/07

PayPal創業者ピーターティールの著書「ZERO to ONE 」の感想



米国の起業家としては伝説的存在(らしい)、ピーターティールの著書ということで前から名前は知っていたのですが、年末年始で読もうと思って購入しました。
日本では知らない人も多いかもしれませんが、PayPalという決済サービスを提供する会社を創った方です。

最終的にPayPalをイーベイに1500億円(※)で売却した後も、Facebookに投資をして5000万円を1000億円にするなど、様々な偉業を遂げています。
すげー。
※面倒なので1ドル100円で計算。


「賛成する人がほとんどいない、大切な真実とはなんだろう?」


この問い掛けを中心に、世界を変える企業を作る人の考え方、取るべき戦略などが書かれています。
一般的に「競争が大事」とみんな考えているけれども、競争は不幸を招くよ、とか、世の中は正規分布ではなくべき乗則に基づくことが多いよ、など、当たり前と思われていることを論理的に否定し、その中で、ではどう考えるべきか?を説いていきます。

−−−引用−−−
実際には資本主義と競争は対極にある。資本主義は資本の蓄積を前提に成り立つのに、完全競争下ではすべての収益が消滅する。だから起業家ならこう肝に銘じるべきだ。
永続的な価値を創造してそれを取り込むためには、差別化のないコモディティ・ビジネスを行ってはならない。
−−−引用−−−

これから会社を起こそうと思う人は、人が気づいていない、けれども気づいたら世の中が変わるようなことを探したり、技術を磨いたりするべきだ、と。
いかに競争を避けるかが大事で、ある市場を独占するほど利益を上げやすく、働いている人を幸せにできる。
だから、最初は自分が独占できる程度に小さい範囲でビジネスを始め、それから周辺に広げていくのが正解だ。
例えば、今では世界中で使われているFacebookは、最初はハーバードの学生のなるべく多くに使ってもらうところから始めた。その後範囲を広げ、今では世界中で使われているのだ。
書いていて思い出したけど、そういえばGREEは最初、慶応の学生のみをターゲットに始めたはずだ。今はSNSの世界では存在感ないけど。。笑

少し話はそれるけれど、昔はいい大学に行って大企業に入ることが良いとされていた。今では多くの人が認識していることだけど、変わりつつある。SONYや東芝やシャープの例を出すまでもなく、「大企業なら安泰」という時代は終わったのだ。

僕が会社を辞めた時、いろんな方から「もったいない」と言っていただけたのだが、僕の考えはちょっと違った。
とにかくどんどん優秀な後輩が入ってくるのである。TOEIC900点超えなんてザラなのだ。その上、IT技術も学生時代にしっかり学んで来ている。

僕は入社当時、エクセルがほとんど使えなかった。笑
その中で自分が一番になることはかなり至難の業であって、ちょっと勝てないなと思っていた。もちろん、一番になる必要はないし、お客さんにどんなサービスを提供できるかが重要なのだが、この世界では勝てないことは明白だった。

だるまやを見た時、①核となる技術があり、②既存のお客さんが多くしかも喜んでくれていて、③ITを使って伸ばせる余地が大きい、と思った。
①は洗い張りであり、③はホームページを核とした広告の刷新だ。


−−−引用−−−
ビジネスで一番意見が分かれるのが、成功は運か実力かという問題だ。
<中略>
人生が運に左右されると信じているなら、なぜ君は本書を読んでいるのだろう?
スタートアップが宝くじを当てた人の物語だと思うなら、学ぶ意味はない。
<中略>
ジョン・ロールズを哲学界から追放しなければならない。
−−−引用−−−

本を読み始める前、この本の内容は技術や起業に関することが大部分を占めると思っていた。
だけど、読んでみると、哲学的な部分、科学的な部分、思想的な部分、歴史的な部分が多分に含まれていた。ピーターティールの教養の深さ広さが文章の端々からにじみ出ていた。
例えば物理学一つとっても、本を数冊読んだ浅薄な知識でなく、おそらく深く考えて自分なりに咀嚼したんだろうなぁということが伝わってきた。
ちなみに、ジョン・ロールズは平等主義者だが、「これからの正義の話をしよう」の中で、最も賛同できない考え方だった。

さて、成功は運なのだろうか、実力なのだろうか。
世の中の成功した人の多くは「運が良かった」と言うことが多いように思う。
確かに、成功した人が「成功は自分の努力のおかげだ」というのはちょっと傲慢な印象を与える。自分なりの努力をしたけれどもうまくいかなかった人からすれば、妬まれる可能性もある。
ただ、実際には努力しているのだ。しかし、本人は努力と思っていないことが往々にしてある。

というか、思うに、多くの人が「努力とは、やりたくないことをやることである」と思っている気がする。
学校での勉強の負の側面のような気がしなくもない。
実際にはその作業自体が好きで好きでハマれることをやるべきだ。
周りからみると、「努力家」に見えるが、自分は「楽しいことをやっている」と思っている状態が理想だ。

高校3年の時、12月くらいからは毎日15時間くらい勉強していたのだが、別に辛くなかったし、むしろ楽しい時間だった。今でも塾の生徒にそんな話をすると、「すげー」とか言われて、僕の話を聞き耳持ってくれるようになったりして便利なのだが、実は別に苦労話でもない。だって、楽しかったのだから。

成功と努力については、ボクシング漫画「はじめの一歩」で一歩のトレーナーである鴨川会長のセリフでまとめたい。

「努力がすべて報われるとは言わん。だが、成功したものは、皆、すべからく努力している」


−−−引用−−−
ベンチャーキャピタルが投資するアーリーステージのスタートアップでは、CEOの年収は15万ドルを超えてはならない。
<中略>
高額報酬は現状維持のインセンティブとなるだけで、社員と協力して積極的に問題を表に出して解決していく動機にはならない。
−−−引用−−−

確かに、VCなどから投資を受けていながら、自分の給料を高く設定するのはどうかと思う。最近よく聞くが、起業する理由はただ一つしかない。世の中を変えたいからだ。お金が欲しくて起業するのはたいてい失敗するのだ。


−−−引用−−−
おたく対営業
<中略>
エンジニアの究極の目標は「何もしなくても売れる」ようなすごいプロダクトを作ることだ。
−−−引用−−−

この部分も印象的だった。
おたくの部類に入っているであろうティールが、営業が大事だということを説いているのだ。おたくは良い物を作れば売れると思っているが、営業や販売が大事だということを結構長く説明している。
これは日本の職人にも言えることで、「良い仕事をしていればお客さんが来る」時代は終わったのだ。
今は、その仕事がなぜ良いのかをお客さんに自分の言葉で説明し、納得してお金を払ってもらわなければならない。
良い仕事をしていればお客さんが来るなら、周りを見渡してみよう。
腕の良い職人がどんどん廃業していないか?


−−−引用−−−
停滞かシンギュラリティか
<中略>
哲学者のニック・ボストロムは人類の未来に四つのシナリオが考えられるとしている。
−−−引用−−−

繰り返される衰退、プラトー、絶滅、テイクオフ。

繰り返される衰退は、世界が進歩したり衰退したりを繰り返すということで、文明の基礎となる知識が普及した現代ではこの選択肢になる可能性は低いそうです。
プラトーは、グローバリゼーションにより世界が均質化に向かった後、横ばいになること。ただ、限りある資源を使い続ける場合、そのまま横ばいでいられることは難しいのではないか、と。
絶滅は、プラトーの途中で資源の奪い合いなどで核戦争が起きた場合、など。世界が滅びる場合。
テイクオフは、技術革新などにより争いを起こさずに成長を遂げ続けられる未来。例えば、地球以外の星に住むことが可能になったり、そこまでいかなくても生産性を劇的にあげられるような技術が生まれたり、持続可能なエネルギー社会に到達したり、だ。

結局、絶滅かテイクオフか、そのどちらかになるのではとティールは考えていて、それがどちらになるかは分からないのだ。
ただ、テイクオフに向かうためには今よりもっともっと技術革新が起こる必要があって、そんな未来を創造していく起業家がもっと生まれることを望んでいるのだと思う。
いや、そうならなければ未来がないという危機感があるからこそ、今までなかったものを生み出すエネルギーになるのだろう。

なかなかボリュームがある本だけど、読み始めてすぐ引きこまれてあっという間に読み終わってしまった。
印象に残るところもたくさんあったし、できれば僕の塾の高校生たちにも読ませたい本だった。




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