2014/03/24

山口の銘酒「獺祭」の社長の本の感想 〜逆境経営〜

今から6年程前、会社を辞めたばかりの僕は品川駅近くの友達の家によく飲みに行っていました。
会社に入社した頃から頻繁に飲んでいるグループがあるのですが、当時そのなかで日本酒を飲むのは僕一人くらいだったので、品川駅のクイーンズ伊勢丹で「獺祭」の4合瓶を買って、友達の家で一人で飲み干して帰るという飲み会だったのです。
そのうち、興味を持った友達に少しずつ勧めるうちにいつの間にかみんな日本酒が飲めるようになっていました。

当時からある程度いろいろな日本酒を飲んでいた僕ですが、そのなかでも獺祭の飲みやすさ、フルーツのような吟醸香、後味のスッキリさは秀逸でした。

そんなわけで、今回は獺祭を今では日本酒好きで知らない人はいない銘酒に育て上げた桜井さんの著書「逆境経営」の感想を書いてみようと思います。

山口県の片田舎の酒蔵で生まれた桜井さんは、他の酒蔵で修行をした後、いっとき自分の酒蔵で働くも父親と上手くいかず勘当同然で追い出され石材卸業社で働いていたのですが、父親の死をきっかけに蔵に呼び戻され後継ぎになるわけです。
当時の獺祭(旭富士)の酒蔵は惨憺たる状況だったらしく、売上は毎年下がっていく状況だったようです。営業不振の原因を営業に聞けば、日本酒業界全体が駄目なんだという返事が返ってくるという状況。当時流行り始めていた紙パック詰めの日本酒を売り始め、売上が上がるもすぐに低迷。。

そんな中、当時日本酒業界では画期的だった施策を次々に打っていきます。
次々に、と言っても、どちらかというと、あまりに苦しい状況の中、他に選択肢がなく打っていったという方が正しいようです。

まずは日本酒に最適な米、山田錦だけを使った純米大吟醸1点に絞ろうとしたこと。

日本酒の呼び方について説明しておくと、まず純米酒と純米酒以外に大きく分けられます。
本当は純米酒、本醸造、普通種(三増酒)かな。

純米酒というのは文字通り米(と米麹と水)しか使っていない日本酒です。
「え??日本酒って米だけで造られているんじゃないの??」と思った方、甘いです。
本醸造というのは米と米麹の総量の10%以内のアルコールを添加した日本酒なのです。
そうすると、どうなるか。
当然アルコール度数が高くなるので、その分をさらに水で薄めたりするわけですね。
三増酒なんてもっと酷くてアルコールを可能なかぎり添加して水で薄めた上に、それだけだと辛くて飲めないから水飴足したりしてますからね、はい。
安い日本酒を飲むと甘ったるいベタベタした感じがするのはこのせいなんです。

ちなみに、世界的な基準で言うとアルコールを添加した酒はリキュールに分類されるので、純米酒以外はすべてリキュールで、ワインとは同格に並べません。まぁいいや。

で、吟醸って何か?と。
国の基準で言うと、精米歩合が60%以下を吟醸酒、50%以下を大吟醸酒と呼ぶと決まっています。
米は表面は雑味が多く含まれていて、中心に近づくほど純粋なデンプンになります。
つまり精米歩合が高いほど雑味がなくなり透き通るような日本酒になっていくわけですね。
国の基準は精米歩合(とそれをラベルに表記できること)ですが、吟醸酒になると、酒蔵ごとに造り方にこだわりがあって、基本的には1ヶ月以上を低温発酵させるところが多いようです。
酵母が死んでしまう寸前の温度にすると、あら不思議酵母は生きるためか不思議な香りを放つらしいんですね。これが吟醸香と呼ばれるもので、米だけで出来ているにもかかわらず、メロンやマスカットのような香りがする日本酒があるわけです。
ちなみに最近飲んだ獺祭はスッキリとしたメロン香、最近家で飲んでいる佐賀の古伊万里「前(さき)」という日本酒ははっきりとしたマスカット香がします。あーうまーー。

だー、日本酒の製法に熱が入ってしまった。。。


ってなわけで、えーっとなんでしたっけ、あ、そうだそうだ。
まず獺祭の立て直し第一弾が「純米大吟醸」に絞るという事だったという話でした。

簡単なように見えて困難がたくさんあったようです。
最初に起こった問題は日本酒業界の構造に由来するものなのですが、、あー話すと長くなりそ。。

日本酒の製造には杜氏という存在がかかせません。
杜氏というのは、昔からの日本酒職人のようなもので、酒蔵で造る日本酒の味を決める重要な存在です。
日本酒は昔から冬のみ仕込むのが常識で、一回の仕込みで一年分仕込むわけです。
基本的に新米が取れる晩秋から冬の間の2,3ヶ月仕込むわけですが、その時に杜氏さんがつきっきりで日本酒をつくっていくわけです。
酒蔵の主人は酒造りには一切口を出さず、杜氏さんが好きなように酒を造るのが一般的で、しかも(今でもそうかもしれませんが)杜氏さんというのは、日本酒協会みたいなところが、「杜氏Aさんはこの酒蔵ね」みたいな感じで行き先が決められたりしたそうです。
もうだいぶ前に僕が大好きだった(最近は。。)「遊穂」という石川県の日本酒があって、当時はめちゃ旨かったんですよ。御姐酒造というところなのですが、当時珍しい女性の杜氏さんが創った酒だったと記憶してます。その人が海外か(つぶれかけていた)御姐酒造かどっちにする?と聞かれたと読んだような。。
うーん、違ったかな。どっかの酒蔵と勘違いしてるかも。まぁいいや。

当時、獺祭の酒蔵が頼んでいた杜氏さんに「純米大吟醸だけに絞りたい」と伝えると、まぁ反感が来るわけです。
しかも周りの人からも非難が来た、と。
「お前は酒造りに口を出しすぎだ」とさんざん言われたそうで。

結局杜氏さんに去られてしまうのですが、それを機に「じゃぁ社員だけで旨い酒を創ってやる」と試行錯誤を重ねて創るわけです。
酒造りについては素人だったため、勘に頼らず可能なかぎりコンピュータ制御、データ管理したことも特徴と言えます。
とにかく機械化できるところは機械化し、人間がやらなければならないところは人がやる、と。
例えば米を洗米する工程や、麹を振る工程はどうしても機械化が難しかったらしく、手間はかかるけれども人がやっているそうです。

旨い純米大吟醸はできてきた。でも地元の酒屋は取り扱ってくれない。
そんな中、大都会東京で売ろうと決めたわけです。
そして獺祭の瓶を片手に東京の酒屋をめぐり少しずつファンを増やしていきました。

着々と売上は増えてきたのですが、桜井さんには当時悩みがあったそうです。
基本的に冬にしか仕込まないので、夏の間社員を遊ばせてしまう、と。
そこでビール造りを始めるのですが、これが大失敗。。
多額の負債を抱えて倒産寸前まで行ってしまったそうで。

なんとか持ちこたえた後も、夏の閑散期を乗り越える手段を考えることは辞めず、「そうだ、冬だけじゃなく一年中日本酒を造ればいいんじゃないか」と思いつくわけです。
そもそもなぜ日本酒づくりが冬の間だけかというと、冬の気候が日本酒づくりに適しているからです。
夏の気温や湿度では麹や酵母などの微生物にとって都合が良くないわけですね。
そこで、空調完備の酒蔵を作り、年間4回日本酒を造れるようにしたのです。

そして、本格的に海外進出を果たすわけで、そういえばこの間のカンブリア宮殿でも獺祭が取り上げられていましたが、パリに和食&獺祭の飲食店を出すそうです。
空輸して海外で売るだけでは、実際どんな品質でお客様の口に届くか信頼できん!ということで、自分でお客様の口に入るまで提供したいと思ったそうで。

すげーなー、桜井社長、すげーなー。

本を読んで一番びっくりしたのは、獺祭の生産計画です。
2013年で約8000石(1石は1升瓶100本)だったのを、2014年に1万6000石、2015年には5万石にするらしいです。
ところがどっこい、2013年に発注した山田錦の量4万3000俵に対して入荷できたのが4万俵だったそうで、2014年には8万俵、2015年には25万俵入荷しないといけないんですよ。。
現在の日本全国の山田錦の生産業が31〜2万俵らしいので、これって無茶苦茶な計画ですよ。
しかももう蔵作り始めてますからね。

確かに6年前は品川駅のクイーンズ伊勢丹でいつでも買えた獺祭が全く並んでいない今の状況を考えると、生産量は増えてほしいし、生産者として増やす努力をすべきだと思いますが、これって大丈夫なのか?と思わずにはいられません。
桜井さんたちはむしろ燃えているらしいですが。すげーなー。


最近の獺祭を飲んだ感想はというと、「あれ、以前と味変わった?」という印象でした。
飲んだお店の人も「少しずつ進化しているんですよ」と言っていたので、やはり変わったようです。昔はスッキリ感が印象的でしたが、幾分濃厚な吟醸香が印象的でした。

ということで、獺祭飲みたくなりましたよね?
そんな時には藤沢の「旬鮮炭火焼 獺祭」に行きましょう。
ちなみに、時々遅い時間のカウンターに僕が一人で日本酒を楽しんでいる場合がありますが、そういう際は気を使って話しかけないよに、、嘘です、むしろ話しかけてもらえると喜びます。笑

いやぁ、大好きな日本酒の話なので盛り上がっちゃいました。。

あ、もう一つ刺さった言葉をメモ。
「費用対効果と言った途端、この程度でいいんだという甘えが出る」
これは合理主義な僕にとって覚えておかなきゃいけない言葉ですね。

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1 件のコメント:

  1. ヒロコです。

    よくできました💮

    今度、日本酒業界の未来に乾杯しましょう(笑)

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