2012/02/05

国内手縫いにこだわる理由

ほんの50年前、うちのばあちゃんが若かった頃、もしくはうちの親父が店を継ぎ始めたころは、きものは自分(もしくはお母さんなど)で縫うことが主流でした。
当時は丸洗い・しみ抜きという仕事はほとんどなく(年に数枚程度だったらしい)、ほぼすべて洗い張りだったそうです。
夏が終わると夏物を洗い張りをして、冬の間に仕立てる。
冬が終わると同じように冬物を洗い張りして、夏の間に仕立て直していました。

だから、洗い張り職人だったうちの親父やおじいさんは大変だったようです。
年に千枚単位で洗い張りをしていたそうです。

時代は変わって現代では、きものは衣食住の衣ではなくなりました。
この点は、賛否両論というか、呉服屋それぞれ意見はあるとは思いますが、僕としてはきものは生活必需品としての衣ではなくなったと思っています。
もちろん、普段からきものを着てほしいと思っていますが、まずはきものを着ることで非日常感を感じてもらったり、生きがいや日本人としての何かを感じてもらったり、そういったことが先かなぁと思っています。
ですから、きものに関わる仕事をする以上、質にこだわらなきゃいけないと思う。
うちのお客さんには、だるまやにいる間も、きものを着ている間も、なるべく良い時間を過ごしてほしいわけです。

とまぁそんなわけで、自分できものを縫う人は少数派となり、ほとんどが職人仕事となりました。
そんな職人仕事である和裁の仕事で、数年前から、「ミシン仕立て」、「海外仕立て」という言葉を聞くようになりました。

確かにそれぞれメリット・デメリットがあるわけで、ミシンや海外で仕立てるメリットもありましょう。
とはいえうちでは今までもおそらく今後も国内手縫いにこだわっていくだろうと思っています。
今日はその理由をさらっと書いてみようと思います。


1. 国内手縫いの方が良いから
だるまやの強みは洗い張りからお仕立てです。
洗い張りをして仕立て直すことに重きを置いている以上、ミシン仕立ては勧められないです。
まず第一にミシンで縫うと解きにくい。解くための労力が何倍もかかるのです。
また、ヘタをすると解く際に生地を傷つけてしまう場合もあります。
洗い張りを前提にする以上、解きづらいんじゃ話になりません。
また、ミシンの場合、針が生地に垂直に刺さるため、洗い張りをしても針の穴が残る場合があります。
他にも、コートなどであるのですが、ミシン仕立てのきものは、解いて端縫っても元の反物に戻らないものがあります。
本来は縫いこんでおかなくてはいけない部分を切ってしまっているものがあるのです。
まぁ、最後の理由はミシンでも縫い込めば良い話なので縫う人の問題ですが、ミシン仕立ては勧められないですわな。

じゃぁ海外仕立てはどうなのか、と。
これはうちも扱ったことがないのではっきりとしたことは言えませんが、海外に出しているお店の話を聞いたことを基に推測で話します。
前述のとおり、うちは洗い張りをして仕立て直すことに重きをおいています。
その場合、古いしみやスレが洗い張りをしても残ってしまう場合が結構あります。
その際、仕立てる前にそれらの難をどう目立たなくするかを考えるのですが、その際に仕立て屋さんと頻繁に相談します。
大雑把には仕立てのことは分かっているつもりですが、それでも細かい部分は職人さんに判断してもらう必要が出てきます。
その際に海外仕立てでは、おそらくそれほど綿密なコミュニケーションは取れないでしょう。
また、寸法についても細かい点でいろいろと考えています。
例えば附下訪問着などの場合、お客様の理想の寸法はこうなんだけど、柄づけを考えると、あと1分広くしたほうが格好良い、というようなことが往々にしてあるのです。
そういったことを一枚一枚仕立てる際に頭をフル回転させて考えているのです。

新しい反物を仕立てる場合ならそれほど問題にならないのかもしれません。
(それでも柄づけなどはセンスが問われますが。)
寸法通り縫えればそれで済むのかもしれない。
ただ、うちのように仕立て直しを専門にする場合には、やはり国内手縫いが一番向いているのだと思います。

じゃぁ仮に、海外でも全く同じようにコミュニケーションが取れるようになったらどうかと考えてみる。


2. 同じ質なら国内を選ぶ
僕も職人を志す以上、同じ職人である和裁という技術も日本に残ってほしいと思っています。
仮に全く同じことを海外でもできるようになったとしても、なるべくなら日本で技術を継承していきたい。


3. 仮に仕立てに関して国内仕立てのデメリットが大きくなった場合
海外仕立てが費用的に安く、技術やコミュニケーションも同等かそれ以上に向上したとして、それでもやはり国内にこだわりたい。
きものは現在ではほとんどが国内消費です。
そのきもの産業の重要な部分である和裁を、少しばかりコストを抑えるために海外に出すことが本当に良いことなのか。
例えば電化製品や機械製品など、海外企業と競争して、海外の市場でビジネスする場合ならわかるんです。
全世界を見て、最も合理的なところで生産し、全世界に売っていく競争力をつけるということなら。
でもきものはほぼ国内で日本人が楽しんでいるわけです。
それなら国内で仕事をしようぜと思います。
とは言っても、もちろん、だるまやとしては、お客さんにメリットが出せるように努力します。
洗い張りは自分たちでやっているので、なるべく安く提供することで、トータルで他店より安く良い仕事ができるように考えています。
おそらく、現時点でミシン仕立てだろうが海外仕立てだろうが、洗い張りから仕立てでうちより高品質で安価なところはほぼ無いと思います。(あったら教えてほしい)
それでお客さんに来てもらって、うちで商品を買ってもらえればうちとしては商売になるわけです。

なるべくなら地産地消じゃないですが、国内で仕事が回るようにしたいなぁと思うのです。
海外の方が安く縫えるからとコストカットを全事業者がやることは、まさに合成の誤謬なんじゃないか、と。
それぞれが自分だけの利益を考えて動くことが、社会全体で見ると悪い方向に行くことは往々にしてあるわけで。

まぁこの点を言うならば、じゃぁ国外で生地を作ったり、染色をしていたりすることはどうなんだ!矛盾しているじゃないか!と言われると、はい矛盾しています、としか言えないんですけどねぇ。
とりあえず今のところも、これから当分も国内手縫いが最もうちに向いていることは変わらないでしょう。


あ、真面目な話になっちゃった。(尾木ママ風に)

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