2018/02/08

僕らの4日間戦争 その5

その5である。さてさて、どこまで続くのでしょうか。

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2月2日(金) 1:00
ふと目が覚め、時計を見ると1時前後だった。
21時過ぎに布団に入って眠りにつくまで2時間ほどかかった気がするので、2時間ほどは寝ていたのか。
しかし一度目が覚めてしまうと不安が頭の中をぐるぐる回って寝付けそうにない。
どうせ寝られないのだからと思いパソコンを立ち上げた。

ふと、昨日の染め職人さんが口にしていた蒸し屋さんの名前を思い出し、ホームページを探してみることにした。
見つけたホームページでは、その蒸し屋さんの今までの経歴や仕事風景などが細かに書かれていた。思っていた以上に大きな工場だった。
また、かなり自動化されている様子も伺え、「これはうちの1反だけを取り出して先にやってもらうというのはかなり無理がありそうだ。。」という思いに至った。
蒸しの工程は朝一でやってもらえるとしても、その後の水洗・乾燥作業は蒸した反物たちをまとめてやるのかもしれない。
そうなると、蒸しあがった反物たちをつなげる時間がかかる。
これだとどう考えても明日のうちに水洗乾燥までは行かない気がする。。。。

最悪、蒸しあがった段階で引き取ってくるしかない。
普段の洗い張りとは勝手が違うと思うが、うちの洗い台でなんとか糊落としをすることを考えておくべきだ。

続いて、染め職人さんのホームページも探してみた。
するとすぐに見つかり、どういった作業をされているのかだいたいつかめた。

「そうか、小紋の型染めなんかもやっているのか。昔うちでもよく小紋の染め返しで型染めに出していたし、今でもうちに巻き見本がある。あれを見せたら、少しは和めるかもしれない。」と考えた。


2月2日(金) 5:50
起床予定時間の少し前に気がついた。
少し眠れた気がするのでパソコンを閉じてから1時間半ほどは眠っていたのだろう。
睡眠時間は全く足りていないのだが、頭は冴え渡っていた。

朝食を手早く済ませると、家族からLINEが来ていた。
そこで、うちの小紋の巻き見本を写真で撮って、LINEで送ってほしいと伝えた。
役に立つかわからないが、今回のキーマンである染め職人さんと少しでも和むために使えるかもしれない。

2月2日(金) 6:55
約束の時間よりだいぶ早めに染め職人さんの工場へ着いた。
まだ準備をしているのかお顔が見えなかったので、もう少し外で待つことにした。

約束の7時半の少し前に顔を合わせ、昨日渡せなかった新横浜駅で買ったお菓子を渡した。
最初は拒まれたが受け取ってくれた。

今後の段取りを聞くと、8時くらいに引染め屋さんに行って反物を受け取り、その足で蒸し屋さんに持っていくとのことだった。
8時まで少し時間があったので、用意していた巻き見本の写真を見せた。
「へ〜、でもこれは多分うちのじゃないなぁ。あ、この写真はうちのと似てるかも。」などと話した。

「今回の反物の水洗はまとめて機械でやるんですか?」と聞くと、「機械でできるのは新しい反物だけや。今回のは端縫いしてあるから手作業でやる。」と言われた。

手作業ならこれだけ取り出してやってくれるかもしれないと希望が湧いてきた。

「最悪、蒸しが終わって、水洗は明日!となってしまったら、その段階で持って帰ることはできますか?うちは洗い張り職人なので、糊落としならできるかもしれないのです。」

と言うと、「そこまで言うなら平気やと思うけど、糊落としと洗い張りの洗いは全然ちゃうで。どうなってもしらんで。」と言われた。

2月2日(金) 8:00
引染め屋さんに向けて出発だ。
染め職人さんが車に染料を積む作業を始めたので、すぐに手伝った。
「それ、ちょっと重いから気をつけてや。そんなんでへばってたら笑われるで。」などと言われた。

2月2日(金) 8:10
引染め職人さんの工場へ着いた。
挨拶も早々に反物を受け取る染め職人さんの後ろで、「本当に無理言ってすみませんでした。ありがとうございました。ありがとうございました。」と何度も頭を下げた。
よし、これで引染めが予定通り終わらないというリスクが一つ回避された。

染め職人さんは受け取った反物に、「急ぎ」と書かれたシールを貼って、こっちを振り返って言った。
「おまじないや。なんぼ早くなるか分からんけどな。」と言った。

めちゃめちゃ嬉しかった。

2月2日(金) 8:30
蒸し屋の工場についた。
反物と染料を運ぶ染め職人さんの後ろにくっついて荷運びを手伝った。
そして、染め職人さんが、蒸し工場の職人さんに事情を話してくれた。

染め職人さん「この人、神奈川から来てはるんやけど、なんとか今日中に乾燥までできませんやろか?ほんま無理言ってすんませんねぇ。僕から無理やて何度も言ったんですが、諦めんのですわ。」

蒸し屋さん「まぁとりあえず蒸し器に入れてくるわ。」と言って去っていき、すぐに戻ってこられた。

僕「最悪、水洗は明日!となってしまったら、蒸しあがった状態で持って帰れませんか?」

染め職人さん「この人、洗い張りの職人らしいねん。新聞紙で巻いたら可能やろか?」

蒸し屋さん「そりゃ大丈夫やろうけど、そんな仕事でええの?洗い張りの洗いと水洗は全然違うで。」

染め職人さん「まぁここまで言うてるんやったら、それでええんちゃいますの?」

蒸し屋さん「とりあえず、蒸してみて、昼頃電話しますわ。」


という感じだった。
染め職人さんから、「昼頃電話があったらそっちに電話する」と言われ、染め職人さんは次の仕事に向かわれた。

僕と悉皆屋さんは一度悉皆屋さんの家に戻り、休憩しながら考えた。
どれだけ蒸しに時間がかかるとしても、3時間だろう。二度蒸しするとしたら6時間。
8時半に蒸し器に入ったから、遅くても14時半には終わるんじゃないだろうか。

そんなことを考えながら、悉皆屋さんに頼んで、うちの仕事を頼んでいる今回無関係の無地染屋さんに行ってもらうことにした。

最悪、「糊落とし」というやったことがないことをやらなきゃいけなくなる。
その際に一番の問題は、「色がにじまないか」、だ。
いかに十分に蒸してあったとしても、糊置きした周りや蒸しが効きづらかったところなどは色がにじみやすいはず。
本職ならにじませないコツを知っているだろうが、僕は知らない。
おそらく聞いても、「そんなに簡単にできるわけがない」と言われて教えてもくれないだろう。
こうなったら頼れる人全員頼るしかない。

すぐに無地染屋さんに着いた。
そこで、事情を話し、「最悪の場合、やったことがない糊落としをやらざるを得なくなるのだが、そのときに何か秘訣ってありますか?酸性にした方が良いとか言いますけど本当なんですかね?」と聞いた。
残念ながら無地染屋さんの領域ではないため、それほど良い情報は得られなかったが、縫い代に隠れる部分や下前など着ると隠れる部分の生地で試しにやってみて、あとはやりながら学ぶしかない、という話ができた。

で、実は5,6年前にこちらの無地染め工房を取材させてもらったときの写真をホームページやポストカードで使わせてもらってるんです、という話をした。
旦那さんも奥さんもとても喜んでくれた。今後も仕事をたくさんお願いしたいと思った。最近は無地染の仕事が減ってしまっていて申し訳ないのだけど。

2月2日 11:30
悉皆屋さんの家に戻り、昼食を取ろうという話になった。

電話を待っている状態だから、弁当でも買ってくるということで、正直食欲のあまりない僕は最も軽そうな親子丼を選んだのだが、なんか、味濃いな〜という印象だった。笑

2月2日 14:30
これほど電話が鳴ることを待ったことはないかもしれない。
だが、電話は一向にならなかった。
実はこの時、僕はかなりの体調の悪さを感じていた。
なんというか、だるいというか。
ちょっと前から咳が出ていたのだが、なんかそれとも違う感じだった。
おかげでちょっと意思が弱っていたかもしれない。
「諦め」の二文字が初めて頭に浮かびかけていた。。

そんな時に、うちの親父からLINEが来た。
「蒸しは終わったのか?」というものだった。
「まだ電話待っているところ。」と返すと、「はやくでんわしろよ」という返事だった。

正直イラッとした。笑

今までの催促の嵐により相手の心象を悪くしているという負い目があったのだと思う。
が、とはいえ、昼頃電話するという約束をしたのだ。
これは電話したって悪くないと思い、弱っていた自分の気持ちを焚き付けて、染め職人さんの工場に電話すると、ご両親が電話に出られ、職人さんは出かけているということだった。

悉皆屋さんに、「今から蒸し屋さんに行って直接状況を聞きましょう」と言い、すぐに車に乗り込んだ。



つづく・・・


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1 件のコメント:

  1. 後輩のおざわ2018/02/12 9:20

    読んでいるだけで平塚→京都→平塚を走り回っている気分です。わたしの紬もここに出てくる職人さんにお願いされたのでしょうか。
    いろんな職人さんがかかわっているというだけで、仕立ててもらう方としてはうれしいものですね。結末が気になります!!!
    そして一夫さんもお大事に。ラインがひらがななのがおちゃめですね。

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